佐藤玄々 略歴

東京日本橋の日本橋三越本店本館の中央ホール吹き抜け部分に置かれている、極彩色の巨大な木造彫刻「天女（まごころ）像」は、佐藤玄々の代表作である。全長10.91メートル、重さ6750キロの巨大な木造 彫刻 は、約10年の歳月を費して制作された。
三越が創立50周年記念事業の一つとして、芸術院会員佐藤玄々に製作を依頼、延べ10万人の助手を使って完成した。
檜材の木彫で、極彩色、宝冠には百余のダイヤを使用、その他にも無数の宝石をちりばめた豪華を誇る。
この天女像は、玄々にとって「晩年の10年間を費やした木彫の集大成だった」と言われている。

1888年（明治21）福島県相馬郡中村町（現在の相馬市）、宮彫師の家に生まる。
宮彫とは、日光東照宮の眠り猫、三猿に代表されるような寺社の柱や欄間などに施した彫刻のことである。
本名は清蔵。幼い頃から家業を手伝い彫りの技術を身につけた。
1907年（明治40）18歳の時に 彫刻家 になることを志して上京。
山崎朝雲に 師事、木彫技術を磨いた。1913年に朝山の号を貰い独立。
30歳で結婚。大森にアトリエを構える。1914年日本美術院同人。院展に出品を続けた。
大正初期からは再興 日本美術院 彫刻部に加わり、平櫛田中、戸張孤雁、中原悌二郎らとともに活躍した。
1923年（大正12）官費留学により2年間フランスに渡り、ロダンの弟子で近代フランスを代表する彫刻家ブールデルに学んだ。
パリを去る時、師にもらった言葉は「汝の血を以って　汝が祖国の魂をつくれ」。
その言葉の通り、帰国した玄々は次第にルーツである宮彫りや仏像など、日本古来 の美術に影響を受けた作品を生み出していった。

1935年には、帝国美術院 会員、1937年、帝国芸術院会員。
1939年、大日本護国会が紀元二千六百年記念行事の一環で計画した「和気清麻呂像」の制作では、朝山、北村西望、朝倉文夫の3人でコンペとなり、朝山の作品が選ばれた。
しかしこの時、師である山崎朝雲が「銅像のような大作は佐藤より朝倉さんや北村さんの方が良い」と評価したため激昂し、朝山の号を返上し師弟の関係を絶った。これから1948年に玄々と号するまで、本名の清蔵で通した。
1945年、戦争により アトリエ が全焼する。1948年「老子」の一節「玄之又玄、衆妙之門」から玄々と名乗る。
1949年、京都妙心寺塔頭、大心院に移住、アトリエとする。戦後は 日本芸術院 会員。

1951年、三越の当時の社長岩瀬英一郎氏から記念像の制作を依頼される。
この頃、京都の妙心寺大心院の庭に専用アトリエ「阿吽洞」を作り、制作に没頭した。
岩瀬社長から依頼された像は、最初費用400万円で2年のうちに作ると約束したはずが、作るうちにだんだん像は大きくなり、制作期間も延長。結局、10年をかけ、費用は数億円まで膨らんだ。
この像の完成から3年後の1963年、75歳で死去した。

国際的な視点を持ち、独自の解釈で日本の 伝統 木彫を近代化した彫刻家と、評価されている。
フランスから帰国後は、歴史や神話をテーマにした像や、身の回りの蔬菜、小動物に取材した精緻な木彫作品を手がけた。
我が国の近代化が進む時代に生きた 彫刻家 で、西洋彫刻や日本の古美術の影響を受けながら、日本の伝統木彫が近代 彫刻 として再構成させ、天才と呼ばれた稀代の彫刻家である。巨匠横山大観をして天才と言わしめた。
代表作は、「和気清麻呂像」 ブロンズ 皇居（1940年）、「天女像 まごころ」 木彫彩色（1960年）。

佐藤玄々の主な出来事や作品の年表

1888年（明治22）福島県相馬郡（現・相馬市）中村に生まれる。本名は清蔵。
宮彫師であった父・伯父に木彫、伏見東洲に 日本画 を学ぶ。
1907年（明治40）郷里を出て上京、朝輝と号して木彫を制作する。17歳で「われ世界第一の 彫刻家 たらんと祈りき」と上京。山崎朝雲に入門する。朝山と号する。
1913年（大正 2）朝雲塾の年季を勤め上げる。
1914年（大正 3）再興日本美術院第一回展に「呪詛」を出品、平櫛田中、内藤伸、吉田白嶺とともに、日本美術院同人に推される。このころ 日本美術院 の研究所に住み、石井鶴三、戸張孤雁、中原悌二郎らと研鑽を積む。
1919年（大正 8）西洞みちのと結婚、大森馬込の アトリエ に居住する。
1922年（大正11）第9回院展に「木花咲耶姫」を出品する。日本美術院25周年記念の事業として、小林古徑、前田青邨とフランスに派遣される。ブールデルに 師事 する。
1923年（大正12）保田龍門、清水多嘉示らとブールデルのアカデミー・グラン・ショミエールで学ぶ。翌年帰国。
1928年（昭和 3）第15回 院展 に「牝猫」「冬眠」を出品する。
1931年（昭和 6）第18回院展に「鷹」「白菜」「鳩」を出品する。
1935年（昭和10）改組帝国美術院 展覧会 の新会員（帝国 美術院会員）に任命される。日本美術院より「朝山彫刻集」を刊行する。
1936年（昭和11）第1回 帝国美術院展覧会に「八咫烏」を出品、政府買い上げとなる。のちに他の美術院の会員とともに、帝展会員の辞表を提出する。
1939年（昭和14）大日本護王会の皇紀2600年記念事業として「和気清麻呂像」の建立計画があり、朝倉文夫、北村西望、佐藤朝山が制作者の候補とされ、最終的に朝山の作品が選ばれる。作品の選定をめぐり師・山崎朝雲と対立、以後朝山の 号 は使用せず、本名・清蔵を名乗る。
1945年（昭和20）戦災に遭い、馬込のアトリエと住居が全焼する。「八咫烏」など多くの作品が焼失する。相馬郡佐須（現・飯舘村）の山津見神社、のち中村町新沼に疎開する。
1946年（昭和21）「陶物頭観音」を制作。
1947年（昭和22）大坂髙島屋の招きに応じ、相馬から兵庫県芦屋に移る。秋頃、玄々と 号 する。
1949年（昭和24）京都妙心寺塔頭大心院に居住する。
1950年（昭和25）「柿」「鼠」「香合」「聖大黒天」を制作。
1951年（昭和26）第5回無名会展に「大慈大悲救世観音菩薩」を出品。「栗鼠」「山兎」を伊勢神宮奉賛会に献上。
三越の岩瀬英一郎社長と創立50周年記念像の制作を契約する。
1952年（昭和27）「蒼鷹」「巣篭鶴」「鶴」「置物」制作。
1953年（昭和28）「宝の小槌」「笑門福来」「鶴」「香合」制作。
1954年（昭和29）無名会展に「麝香猫」「救世観音」「神狗」を出品。
1960年（昭和35）三越日本橋 本店の「天女」像が完成する。
1963年（昭和38）逝去、享年75。

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